駆け込み決算処理〜実際の相談案件と経理に必要なポイントをご紹介〜

中小企業やスタートアップでは【あるある】かと思いますが、期末の決算で社内がバタバタとなり、終わりのみえない作業に苦しめられる経験をしている方も多いのではないでしょうか。上場準備で監査法人を入れている場合、期限の迫る中承認を待ちながら作業を進めるため、カオスとも呼べる状況に陥ります。

慌てて丸投げするなど悲惨なことにならないように、この記事では最低限これだけはやっておくべきポイントについてご紹介します。弊社に相談いただいた悲痛な実体験が元になっておりますので、参考になるはずです。

1.実際にあった相談案件

領収書5,000枚の処理を2週間で完了した事例についてご紹介します。5,000枚というとどれくらいの量なのかなかなか想像しづらいかと思いますが、一人の経理スタッフが伝票仕訳をおこなう場合、ひと月に処理できるのは最大300枚といわれています。計算すると、経理スタッフ17名を集めて一ヶ月かけて処理する量になります。

実際には2週間で処理を完了させていますから、総勢34名の経理スタッフで処理をおこなうはずの業務量を完遂させた計算になります。経理スタッフを34名も雇用している企業は大企業でも多くは見かけないため、相当な量を処理していることがイメージできるのではないでしょうか。

1-1.「1月末決算」→「3月末までの税務署への申告」に合わせなければいけない

相談のあったクライアント様は1月が決算月でしたので、法人税を税務署に申告するのは2ヶ月後の3月末が期限ということになります。所得税の場合は原則として2月15日から3月15日が申告期間とされていますが、法人税の場合は決算月を基準に申告日が定められることになっており、決算日から2ヶ月以内の申告・納付が義務付けられています。

期限を過ぎると利子税が課されるため、決算月から経理担当と計画的に処理を進めていく必要があります。ただし、やむを得ない理由がある場合は、申告期限を延長することは可能です。具体的には、会計監査人の監査を受ける場合と、災害の被害に遭うなどして期限までの申告が物理的に不可能な場合です。

法人税の申告は、原則として監査人による監査と株主総会の承認に基づいておこなわれます。株主総会は決算日から3ヶ月以内の開催と定められているため、実質的に申告を延長せざるを得ないケースがあります。

1-2.問い合わせが来たのは3月初旬

上述のとおり、決算日から2ヶ月以内に税務署に法人税の申告をしなければならないため、今回のクライアント様の場合、申告期限は3月末日です。ですが、実際に相談をいただきました時期が3月初旬でしたので、申告期限まですでに1ヶ月もない状況でした。その上、当時の状況をヒアリングしたところ、申告期限まで1ヶ月を切っているにも関わらず、経理処理については全く手をつけられていない状況でした。

時間がない中ゼロから処理を始めるのはかなり難易度の高い相談ではありましたが、クライアント様が確認している処理量としては、領収書100枚×12ヶ月分ということでしたので、特急案件としての扱いをすれば、なんとか間に合う算段がつけられる状況でもありました。普段お受けする処理量としては割高になってはしまうものの、先方も時間に窮しているということで、急ぎ取り掛かることになりました。

1-3.当初は領収書100枚×12か月程度と聞いていたが実際に届いたのは5,000枚!

申請期限まで時間がないため特急案件ということで、総勢5名で領収書の処理を開始しました。紙で渡される領収書をひたすらPDFにデータ化し、仕訳起こしをおこない、クライアント様の会計ソフトに反映させるためのデータ作りを進めていきます。

朝から夜中までひたすらデータ化と仕訳作業を続けていましたが、中々終わりがみえないため、作業スタッフにも焦る気持ちがつのっているのを感じました。しかし、申告期限も迫っているため、後戻りをすることはできず、ひたすら目の前の作業をこなします。すべての集計が終わったあとに判明したことではありますが、領収書の数は1,000枚ではなく、4,500枚にのぼりました。

1-4.領収書を1枚1枚PDF化&指定フォルダに格納(専用端末-スキャンスナップ)

想定していた量の4.5倍もの領収書を、丸6日間かけてなんとか作業を完遂することができました。朝9時から夜中の2時まで、山のように積み上がる領収書をひたすらPDFにする作業を続け、並行してPDF化した領収書データを手分けして仕訳起こしをおこないました。

4,500枚の紙領収書をPDF化するのに使用したツールはスキャンスナップ(リンク)です。スキャンスナップは、書類整理の悩みをスキャンで解決するためのツールで、スキャンしたデータ書類をパソコンやクラウドで保存することができます。書類をデータ化することで紙がなくなるため、デスク周りがスッキリしますし、外出中でも資料を検索することができて便利です。

データ化してあれば検索ができるため、欲しい資料を短時間で探し出すことが可能です。2023年10月からインボイス制度も開始されますので、資料のデータ保管は欠かせない動きとなっています。

1-5.費目ごとにGoogleフォームで仕分け(経理チーム4名が2週間緊急対応!経験から費目を判断して仕分ける)

領収書を処理するには、紙の領収書をデータ化した上で、さらに費目ごとに仕訳起こしをする必要があります。経理チームの4名で手分けをしながら業務に取り掛かったのですが、実際の作業はGoogleフォームを利用しました。Googleフォームとは、Googleが提供しているクラウドサービスの一つで、クラウド上のアンケート用紙のようなものです。

例えばクラウド上にエクセル資料を保管しておけば、複数のスタッフで同時に編集することが可能になります。Googleフォームで日付や金額、費目などを予め記載した経費入力フォームを作成し、領収書ごとにそれぞれの情報を入力してもらいました。集めたデータを集計すれば、リアルタイムで作業の進捗状況を確認できます。

1-6.1人1日90枚まで細分化して終わらせた

経理チーム4名と代表1名の総勢5名で4,500枚の領収書を丸6日間かけて処理したわけですが、なんとか1人1日90枚にまで細分化することで、期日までに完遂することができました。今回はギリギリ間に合うタイミングでご相談をいただきましたが、クライアント様の社内では領収書の数を把握できないほどバックオフィスが機能していない状況でしたので、自力解決が難しい問題に頭を抱えて相談しないままでいたら、確実に期日を過ぎてしまったことでしょう。

改めて日々の経理業務の大切さを実感した案件となりました。社内の経理が機能していないと、資金繰りの悪化や黒字倒産を引き起こす恐れがあるため、今一度経理まわりの社内体制を見直すことをおすすめします。

1-7.会計システムにインポートできるCSVの状態で納品完了

先方からいただいた領収書のPDF化及び仕訳起こしが完了したら、クライアント様が使用している会計システムの仕様に合わせて、データをインポートしやすいようCSVの状態で納品をおこないます。CSVとは、Comma Separated Valueの略で、カンマで区切った値という意味に訳されます。

数値を並べる表という機能を持つツールであるためエクセルに似ていますが、エクセルが表やグラフなどの装飾機能に長けているのに対して、CSVは異なるシステム同士のデータ移動が容易で、互換性の高いデータ管理を可能にします。CSVでの納品が完了し、期日内に無事クライアント様の会計システムへスムーズなデータ移行ができました。

1-8.税理士がチェックし一発OK!

納品した仕訳データをもとに、決算資料を税理士が細かくチェックをおこないます。税務署に申告した決算書は、原則訂正はできません。提出した後に誤りを見つけたとしても、決算書は株主総会で確定されているため、行政官庁による訂正命令がない限り、自社の都合での変更は認められていません。

行政官庁による訂正命令は大企業でも稀なケースですから、中小企業の場合はほとんど起こり得ないでしょう。ただし、金額的に重要度が低い場合などであれば、次年度の決算書にて修正することが可能です。誤りを発見した場合には、どのような処理が適切なのか、税理士に確認するようにしましょう。

1-9.PDF化したことで参照が一元化し、経理も無駄コストを把握しやすくなった

今回の領収書処理としてはPDF化がメインになりますが、領収書のPDF化は多くのメリットを得られます。PDF化のメリットは、情報検索と管理コストの削減です。領収書をデータ化することで、欲しい資料を短時間で手軽に探せるようになりました。紙で保管をしていると、数が増えるほど何処に何の資料があるのか分からなくなりますし、劣化や擦れなどで字が見えにくくなれば、もはや何の領収書なのかも分からなくなります。

しかし、データは劣化することがありませんので、いつでも情報を引き出すことができます。また、紙の領収書は7年間保存しなければならないため、保管場所を確保しなければなりませんが、データであればサーバーで管理すれば良いため、巨大なスペースは必要とせず管理コストをおさえることができます。

2.相談案件からわかったポイント

2-1.経理に詳しい人が不在だった(税務署への申告の重要さ、仕分け方法など)

今回の相談は、申告期限まで1ヶ月にも関わらず1年分の領収書に何も手をつけていない状況でのご連絡でした。売上の管理などは社長の頭の中だけでおこなわれていたようで、簿記の専門知識を持った人が不在であったため、把握している領収書の数にも大幅なズレがありました。

経理に詳しい人が一人でもいたら、この危機は避けられたはずです。経理業務は体制を整えればリモートでもできますし、専門業者に外注するのも一つの手段です。経理スタッフがいれば、節税をしてより多くの利益を会社に残すこともできたはずです。

2-2.ため込むとバタバタするので毎月処理するように変更

1年分の処理を2週間で完遂することはできましたが、解決策が見つからない中時間だけが過ぎていく状況で、クライアント様も相当な焦りを感じていたことと思われます。溜め込みは本業に支障をきたす恐れがありますので、経理専門のスタッフを配置して、毎月処理するよう社内体制の変更を実施しました。作業フローが明確になれば、経理を任せて安心して本来の業務に専念することができます。

2-3.包み隠さず、変に整理せずありのまま現状を見せる方が処理する側はやりやすい

中小規模の事業者様の場合、今回の事案のように領収書の保管はしているものの処理が追いついていないケースは多々あるかと思います。専門業者へ外注する際は、包み隠さず、変に整理せずありのままの状況を伝えるようにしてください。自己流で進めてしまうのが一番の遠回りになってしまいます。現状を正確に把握し、適切な処理を最短ルートで遂行することが大切になります。

2-4.できれば決算月には相談しはじめてほしい、最悪でも申告の1か月前がデッドラインと覚えておこう(ボリュームにもよるが)

今回の相談は申告まで1ヶ月を切っていましたので、まさにデッドラインぎりぎりの事案でした。相談する業者が異なれば、断られてもおかしくないケースでもあります。申告は決算日から2ヶ月が期限ですので、できれば決算月中には相談し始めることをおすすめします。申告の1ヶ月前までには申告資料が整うようなスケジュール感が理想的です。

まとめ

駆け込み決算処理の事案と解決ポイントについてご紹介しました。ポイントを押さえたうえでぜひ弊社にご相談ください。記帳代行の作業を決算担当の税理士に相談することはできますが、税理士に依頼しても断られる可能性がありますので、社内で経理担当を配置するのが一般的ではあります。

外注する場合、200枚で2万円~3万円が相場ですので、5,000枚だと50万円~75万円の費用感になるでしょう。5,000枚を2週間で対応できる会社はほぼないといっても過言ではないため、できるだけ早めの相談がおすすめです。単純な集計処理だけでなくPDF化による一元化も承りますので、お気軽にお問い合わせいただけると幸いです。

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